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「恭也、君にとって、『救い』って、なに?さっきから『救う』だの『助ける』だの言っているけれど、君はいったいぼくをどう『救ってくれる』つもりなの?」
「何度も言っているじゃないか。心神喪失でもなんでもいいから、どうにか死刑を免れて、そうしてここを出ていくって」
「心神喪失が認められてもどうなるとも思えないけど、それはいいや。じゃあさ、出たらどうするの。ぼくはいったいどうすればいいの?」
「働けばいいじゃないか。職が見つからないっていうなら俺も手伝う」
「ぼくは人間恐怖症だ」
「カウンセラーに行けばいい」
「金がないよ」
「俺が出す」
「奥さんと子供は?」
「なんとかする」
「なんとかって、なに?」
「色々あるだろ。金を借りるなりなんなり・・・」
「どうせ、また重荷になって、ぼくを見捨てるだけじゃないの?」
引きつった恭也の顔を見て、ぼくは口元を釣り上げてみせた。なにがおもしろかったわけじゃない、むしろ腹立だしくさえあったが、「ほら、そうじゃないか」という思いは、どうしても拭うことが出来なかった。
「恭也、さっきも言っただろう。『君がぼくを見捨てたんだ』って。『君に頼るなら頼っていた』って。ぼくは君に頼る気なんて、いや、頼るっていう選択肢自体が、最初から存在しないんだよ」
「・・・岬」
「勘違いしないでくれよ。君が悪いっていうわけじゃない。ぼくがどん詰まり過ぎているだけだ。ぼくには金がない。学がない。職もなければ家もない。家族もいない。友達も・・・結局、ぼくを見捨てた。ぼくにはなにもないんだ。この体と命と恨み以外はなにもない。人の間で生きていくのに必要なものがまるでない。こんなぼくは、人間じゃない。ただの『怪物』だ。だって『人の間』で生きていくことが出来ないんだから、ぼくは人間ってヤツにつま弾きにされた『なにか』でしかない、そうだろう?」
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