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「被告人、曽根崎岬」
「はい」
「君は、自分のした事について、どう思っている」
「・・・すいません、『どう思っている』、とは」
「解釈は自由にしてよろしい。君がした事に対して、君が思うままに述べるがいい」
あいまい過ぎる質問だった。解釈の仕様があり過ぎて、なにから述べればいいのかさっぱり分からない。だが、自分がしたことは、自覚している。だからそれを素直に伝えようと思った。
「とんでもないことをしたと思っています。死刑にされて当然の、残酷な殺し方をしたと。そして、それをぼくはわきまえながらやりました。ですのでどうか、死刑にして頂きたいと思います」
「ふざけるな、四人も殺しておいて、『わきまえてた』だと!この人殺しが!」
「静粛に、静粛に!」
裁判長が槌を叩く中後ろを振り返ると、そこには鬼のような形相でぼくを睨みつけている、見知らぬ数名の男女がいた。年齢から言って、品野達の両親かと思われた。だが、別に胸は痛まなかった。三宅に言った通り、ぼくは彼らを省みる事はやめている。三宅達がぼくの両親を省みずぼくをいじめていたように。だが、ぼくに彼らを省みてやる義理はなくても、彼らにはぼくを罵声する権利がある。だから、ぼくは彼らの殺意にまみれた視線を、背中に甘んじて受け続けていた。
「被告人、『わきまえながらやった』とは?君は、死刑になるのを覚悟の上でやったのか?」
「そうです。死刑になると、それを『理解』した上でやりました。死刑になっていいから、あいつらを殺したいと思いました。死刑になるのを承知で、残酷なやり方で、あいつらを殺す決意をしました。ぼくをいじめていたあいつらを」
「被告人、君は、たかがいじめで、四人もの人間を残酷な方法で殺害したと言うのかね」
「検事さんは『たかがいじめ』とおっしゃいましたが、ぼくにとっては、ぼくのその後の人生が全て狂ってしまうぐらい、大きな出来事だったんです。それに、彼らはそのことを、全くと言っていい程覚えてくれてはいませんでした。もし、少しでもぼくにしたことを覚えていて、そしてぼくに謝ってくれていたら、ぼくも彼らを殺しなどはしなかったでしょう。しかし、彼らは忘れていた。ぼくはそれが、ぼくにはそれがどうしても許せなかったのです」
「そのいじめとやらは、本当にあった事なのかね?」
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