第六部

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「弁護士さんにとって、人を・・・ぼくを、『救う』って、いったいなんですか?」 「決まっているでしょう。無罪を勝ち取る事です。無罪にして、生きるチャンスを与える事です」 「生かすことは・・・『救い』ですか?」 「当然ですよ。生きてさえいれば、やり直すチャンスはいくらでもあるんですから」 「・・・・・・そうですか」 ぼくはなにか言おうとし、しかし、結局、やめた。言っても伝わらないと思ったからだ。所詮、この男は人を殺したこともなければ、死にたいと思ったこともない、ただ犯罪者を弁護するだけが仕事の人間なのだ。そう思った。「生かせばいい」。それしかない。そのためならぼくの話を聞く必要も、信じる必要も、ぼくの心を考える必要も、微塵も感じていないに違いない。 その後裁判は、ぼくの精神状態だけが論点のまま進んで行き、結局、ぼくの精神鑑定を行った後ということで今日の裁判は終了した。ぼくは全くしゃべらなかった。ぼくは当事者のはずなのに、まるでぼくは居なくてもいいみたいに誰かがしゃべっているだけだった。叫びたかった。「ぼくはいじめられていたんだ」と。「ぼくはあいつらが許せなかった」と。「ぼくの妄想なんかじゃない」「ぼくは気が狂ってなどいない」。「誰かぼくの心を考えてくれ」。「誰かぼくの心を分かってくれ」。「誰か、誰でもいいから」。「誰かぼくの話を聞いてくれ」。叫びたかったし、泣きたかった。そうして終わらせて欲しかった。なのに、裁判はぼく一人を置き去りにして、ぼくを狂人として生かせるかどうかだけを話し合っていた。何も考えたくはなかった。 今すぐここから逃げ出したかった。
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