第六部

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2. 精神鑑定を行った後拘置所に帰ってきたぼくに、「面会人だ」と、職員の男が声をかけた。ぼくに会いに来る人間など、といぶかしく思いながら面会室に行くと、そこには恭也が座っていた。 「岬・・・」 「恭也。・・・来て・・・くれたのか」 「ああ、その・・・元気・・・だったか・・・?」 恭也の目は怯えていた。当たり前だ。ぼくは「四人もの人間を殺した人殺し」だし、加えて、恭也にもあんなことを言った後だ。普通、面会になど来ない。だから、また会う可能性など、全く考えていなかった。恭也は、少し痩せていた。やつれていた。「君の方が元気だったか」、そう言いたかったが、結局、それは言わなかった。 「人を殺して捕まったのに元気もなにもないと思うけど、元気だよ」 「本当か・・・飯は、食っているのか・・・ちゃんと寝ているのか・・・」 「食べてるし、寝てるよ。今まで生きてきた中で一番食べて寝てるかもしれない。だってなにも心配することがないんだから。こんなことを言うのはなんだけれど、外にいるよりずっといい。ここではなにも、心配しなくていい」 「心配ってお前・・・裁判中だろう。死刑になるかもしれないんだろう」 「なるかもしれないじゃない。死刑だ。ぼくは最初からそれを望んでいる。あの弁護士が無罪を勝ち取りたいがために心神喪失なんて勝手に主張しているだけだ。腹は立つけど、心配はしていない。今、どう弁護士を説得するか考えている」 ぼくの言葉に、恭也はショックを受けたような顔をした。歯を食いしばり、次の瞬間には「ふざけるな!」と大声を出す。 「岬、お前、ヤケになるなよ!確かに、いじめを隠蔽されて、証明出来なくて、心神喪失状態なんてでっち上げられて、怒っているのは分かる。でも、お前を助けるためだ。なんでそれが分からないんだ!」 「なんで、心神喪失状態をでっち上げることが、ぼくを『助ける』ことになるんだ」 「分からない事言うんじゃない!無罪になれば、ここを出られる!ここを出れば、まだやり直すチャンスはいくらだって・・・」 「なんで、ここを出ることが、ぼくを助けることになるんだ?」 ぼくは、恭也の方を、せせら笑いを浮かべて睨みつけた。恭也にそんな真似をするとは思ってもみなかった。でも今は、どうしようもなく馬鹿らしくて、虚しくて、腹立だしくてたまらない。
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