第六部

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「・・・え?」 「ぼくは、恭也・・・金がない。学もない。職もなければ家もない。家族もいない。この命以外、正真正銘なにもないんだ。そんなぼくが、ここを出てなんになる?いったいどうやって生きていける?」 「ば・・・馬鹿な、馬鹿な事を言うんじゃない!俺がいるだろうが!お前が自立出来るまで、俺がそれまで支えてやる!」 「無理だよ。その気があったなら、あいつらを殺しに行く前に、ぼくは恭也を頼ってた。人の命を奪う前に、やり直せる道を模索していた。でもそれをしなかったのは、恭也、いったい何故だと思う?恭也・・・君が、ぼくを先に『見捨てた』からだ。もし、ぼくを本当に気にかけてくれていたのなら、どうして君は・・・ぼくを見舞いにも来てくれなかった?一度も会いに来てくれなかった?」 ぼくの言葉に、恭也は目を大きく見開き、顔を青ざめさせ、ブルブルと震えた。恭也の反応に、やっぱりそうだったのかと、そう思った。恭也は死ぬ寸前みたいに震えながら、震えた声でぼくの名前を呟いた。 「岬・・・お前・・・」 「ずっと、考えていたんだ。ぼくはなんで、君にお別れを言うことばかりを考えて、君に頼ろうとしなかったのかを。恭也・・・君は、君はぼくを『見捨てたんだ』。そしてぼくはそれを無意識の内に『分かってたんだ』。はっきりとは自覚していなくても、君に見捨てられたんだって無意識の内に、分かっていたから、ぼくは君には・・・頼らなかった。頼れなかった。見捨てられることが分かっていたから。・・・品野達に目を潰されたぼくを、君が見舞いにも来なかったように」 ガアンと音がし、ぼくは恭也を、ガラス戸に拳を押し当てている恭也の顔を眺めていた。恭也は泣いていた。悲しくてたまらないような顔をして、ぼたぼたと涙をこぼしていた。
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