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羅魏が出て行った入口から、鼓子が咳き込みながら賭場に入ってきた。
役人は負傷し、賭場はめちゃくちゃ。
きっと、鼓子はミハイルを睨みつけた。
「また勝手に刀抜いたでしょう!!」
「……え?私じゃないのにぃ…………」
鬼となった羅魏は、夢摘を肩の乗せ、疾風のように日の落ちた町を駆け抜けた。
若竹の生い茂る真っ暗な森で、ようやく止まって夢摘を肩から降ろした。
羅魏の角の生えた額とこめかみからは、肉がめくれ血が滴っている。牙の生えた口元からも、鮮血が流れ落ちた。
「……痛い?羅魏さん……」
夢摘が手を伸ばしたその時、
「触れるな小娘!鬼が移るぞ!!」
軋む竹藪の向こうから、老婆が音もなく表れた。
「……刀を収めよ。この馬鹿もんが」
爪が長く伸びきった血の滴る指で、羅魏は上手く刀を鞘にしまえない。夢摘は、代わりに刀を収めてやった。
「娘、恐ろしゅうはないのか?」
「うん。がんぞう友に悪い人はいないかい」
羅魏は雄叫びを上げて気を失った。
「羅魏さん!」
「案ずるな。しばらくすれば元の人に戻る。」
横たわる羅魏の隣に、夢摘と老婆は座って星一つない空を見上げた。
「昔から、たまにわしに家系には、鬼の子が生まれるんだ。遥か昔に鬼と交わった者がいたのやもしれん。この刀は鬼を封じる力がある。鬼を斬る事が出来る……羅魏が身も心も鬼となったなら、この手で成敗せねばあるまい」
夢摘は羅魏を見つめて
「ばあちゃん、羅魏さんは鬼になっても、心は羅魏さんやったとよ。私を守ってくれたとよ。見た目は鬼にかわっても、がんぞう友の羅魏さんよ…………私が知ってるホントの鬼は、しゃあーくの顔した鬼じゃかい……」
人の姿に戻りつつある羅魏の頭から、角が一本ぽろっと落ちた。
老婆は羅魏の頭をなぜて、
「…………はじめから心も鬼に生れれば、苦しむ事も無かったろうに……」
ぽろり、涙がこぼれた。
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