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「ちょっと、何でいきなりそんな……」
「結坂」
見たことのない片割れの顔に戸惑う咲希を、慧は顔を横に振ることで制した。
咲希が黙り込んだことで、尚人が再び言葉を紡ぐ。
「わかってるんだ……本当に、ずっと最低だったって……。ここでお前らに任せて、何の責任もとらなかったら、最低のまんまだ。だから、俺も行く」
「覚悟はできてるんだな?」
慧が走りながらとは思えない程静かな声で尋ねる。
「……うん」
尚人はそれに、確かに頷いた。
「結坂、聞いただろ。ついてくるってさ」
「……わかった。でも、どうなっても知らないから」
本当なら、尚人にもっと文句を言いたい。学園に来てからのことだけじゃない。家でのこと、学校でのこと、辛いことはたくさんあったのに、尚人は一度も助けてくれなかった。たくさん罵ってやりたい。
そして罵るだけ罵って、普通の、会話したりご飯を食べにったりするような双子になりたい。
でも、そんな余裕はもうなかった。
〈やだ、何ここ暗い!〉
〈やめて! どこ連れて行く気なの!〉
さっきから、携帯を通して吉川の悲鳴がひっきりなしに聞こえてくる。猶予はなさそうだ。
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