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ヒーロー好きの平凡な少年・尾沢拓未が里倉と名乗るメガネ男と出会い、奇妙なことに巻き込まれてから一夜が経った。
ひどく目覚めの悪そうな顔をした拓未が布団の上に小銭を広げてうなだれている。
「はぁ、それにしても、昨日は散々だったなぁ。・・・・・・結局代金は全部俺持ちだし、このけったいな生物はまだ寝てるし」
あの後拓未はとにかく大変だった。
突然人形になった里倉を抱えながら例の工事現場まで歩いて戻り、乗り捨てた自転車を拾って帰ると、今度は家の掃除と買い出しに追われた。
仕方ないので、買い物代はなけなしのお小遣いから充てたが、なにせ家中の食べ物の買い出しだ。現在、拓未の手元には、もう小銭が数枚しか残っていなかった。
そうしてきのうの一件で変身?してから、ずっと気持ちよさそうに寝ている人形―里倉を恨めしそうに睨んでいると、階下から母の張りのある声が聞こえる。
「拓未ぃ、早く降りて来て朝ご飯食べちゃって!」
「・・・・・・はぁい」
いつものように呼ばれてから下へ降りて、出掛け際の母をぼーっと見送る。
「母さんきょうは早く出なきゃいけないから、食べたら洗っておいてね」
「いってらっさーい」
母の足音が遠ざかるのを確認してから、拓未は大きな溜息をついた。
「ふぅ、朝くらいゆっくりしたいよなぁ。・・・・・・あ、きょうは和食なんだ」
にわかに拓未の声のトーンが上がる。この年頃の子供にしては珍しく、和食好きのようだ。
「いいよねぇ、このお味噌汁の香り。心休まるねぇ~」
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