第二章

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気に食わないのには、もう一つ理由がある。 八代は、祖母から日記帳を相続していた。 祖母はまだ健在であるから一種の生前贈与だ。 金品は受け取っていないので正確には、そう言い表すのが適切かどうかは知らない 祖母は大切に持っていた一冊の日記帳を彼女に相続した。 日記には、祖母の若かりしころの思い出が詰まっている。 八代は初め、その祖母から託された手帳を開くのを躊躇った。 いくら本人の許しがあるとはいえ、人様の日記を覗き見るなどしてはいけないことだと思ったからだ。 だが、そんな八代の行動を予測していた祖母は言った。 「見るために上げたのだから見なさい。きっと役に立つから」 自らの家元の流派を強固なものにして、さらに一族を繁栄に導いた祖母は、彼女にとって一番憧れるべき存在であり、自らの人生の指針ともいえる師範だった 彼女は思った。手帳は私に託された。もしかしたら、ここに何か重要なことが書いてあるのかもしれない。と それに若き頃の祖母が何を考え何を感じ生きてきたのか随分興味があった 祖母という人は、あまり自分のことを語らない。 その彼女が八代に手帳を託し役に立つと宣言したのだ。 彼女はその言葉をそのまま真に受けた。 だが、日記の中には意外なことも書いてあった。 それは、祖母の淡い青春を綴ったものだった。
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