つくづく、甘い。

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「しゅうちゃん」 「なあに、秋くん」 「あのね、ぼくね、あきっていってね、そのね、しゅうちゃんはどんなかんじなのかなって」 「感じ? どんな、うー、うん、いい感じだよ、秋くん」 「いいかんじなの、よかったあ。ぼくはね、木みたいなやつに火ってもので、その、秋っていうんだ」 「……あ、漢字? うん、わたしもおんなじ漢字でしゅうなんだよ」 「ええ、おんなじなの。やったあ、すごいや!」 そんな会話を僕はこのところ久しく思い出した。夕暮れの校舎でもない、昼休みでもない、ましてや夜の校舎でもない、晴れやかな朝日が射し込む校舎の一角に僕はいた。朝焼けとは言えない。朝日が窓から教室に滑り込み、明るいだけだ。 何故朝方に思い出したのか、僕は考えた。見渡せば駄弁る為に複数人が誰かの机の周りに集まっていた。茶髪に染められた髪をした女子も二人程混じっていて、楽しそうにこれまた髪を染めた男子の話に相槌を打っている。 少しだけ左に目を向けると、親指の爪を噛む男子生徒がいた。思うに複数人に占領された席の子だ。長い前髪で表情が分かり難いのに、俯いているので加えて分からない。好意的なら声を出して道を譲るか頼むだろうし、快くは思っていないのだろう。 男子は苛々からか深爪であるのに、爪を噛んでいる。かりかりとした音が聞こえて来そうだし、なにより、血が滲んでいるようにも思えた。占領する側に悪意はない。悪意の度合いなら離れた場所で佇む男子が勝っている。油っこくて光を歪に反射する黒い髪が印象的だ。
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