【暴走Ⅴ その壱】

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「あの海は、大和にとって辛い思いをぶつけた場所だから。洋介さんがね。言ってたの。お父さんが亡くなった時にあの海で大和が泣いたって。だから、あそこじゃなきゃダメだった。あそこから前に進ませなきゃダメなんだよ。そうしなきゃ、大和はいつまでも過去に縛られて身動き出来なくなるから。自分を嫌いな自分が存在するのは結構キツいからね。私も同じだったから。大和が今から先どうやって生きて行きたいか聞きたかったの。大和の本音を大和の口から聞きたかった。」 缶コーヒーをグッと握りしめて言った。 『で。聞けたのか?大和の本音。』 「ん。ボクシングがしたいって。俺にはボクシングしかないからって言ったよ。だからね。ルイさんにお願いしたの。ある程度の事情を説明して、そっちで育ててくれないかって。ルイさんはアルさんの相手も欲しかったし、後は本人次第だって言ってくれて。大和はやってみたいって。アメリカで前に進みたいって。」 缶コーヒーを開けて一口飲んだ。 『そうか。良かったな。に、しても。お前は本当。全部自分で決めやがって。俺は何の為に居るんだ?相談でも何でもいいから少しは頼れよな。』 そう言って私の髪をくしゃと撫でて竜兄は言った。 「はい。すいませんでした。これからは全て相談します。今回は色んな事、突然思いたって。全部、確信出来ない事ばっかりで。どうなるか分からなかったから。だけど、これからはそう言う事も含めて全て相談しますんで。でも、勝つ自信はあったけどね。」 ニッと笑うと竜兄も笑った。
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