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「残念だったね、やっぱりハンディがあったほうがよかったかな」
勝った方の男が右頬に笑窪をつくりながら挑発をする。
「馬鹿いえ!ハンディがあったらつまらないだろうが!!」
「いや、その方がきっといいゲームになる」
「なんだと!!」
勝った方の若い男と、負けた方の少し歳のいった男2人のじゃれ合いにバーテンダーは「ほどほどにしなよ」となだめながらカウンターに戻って来た。
流佳は「彼は強いの?」と尋ねると「強いねー。若い彼だろ?まず素人じゃあ勝てないかなあ」と手元のグラスを棚に並べながら答える。
「へー…。」
どれほど強いのだろうか。
半分ほど飲み干したグラスを持ち、流佳はその男2人の席へ向かった。
といってもその距離は2mほどで相手は近づいてきたすぐに気付く。
「ゲーム、見ててもかまわないかな?」
あでやかに微笑みながら声をかけると、2人の男は見慣れない黒髪の流佳に一瞬、呆然としていた。
もしかしたら、客は自分たちだけだと思っていたのかもしれない。
若い男が恐る恐るといった風で「か、かまわないけど」と答えた。
「ありがとう」
流佳は2人の警戒心を含んだような視線を浴びながらも、とくに気にせず、2人の間の席に腰を置く。
顔を正面に向ければ男たちと目が合った。
流佳は交互に男の顔を見つめながら「ん?何?気にしないでゲームを続けて?」と言う。しかし、若い男はすぐにボードへ向き直りゲームを始めたが、少し歳のいった(先ほど負けた)男はゲームをしつつ、チラチラと流佳の事を興味あり気に見ており、まるで注意力散漫でゲームに集中できていなかった。
チェスはそれなりに力をつけると対局した相手が素人かそうでないか、もしくは弱いのか、強いのかがゲームの最初の段階でわかる。
この2人のどちらが強いかなんて火を見るより明らかだった。
先手の白が先ほど負けた男、黒は若い男である。
それにしても…、
白が弱すぎて黒を持つ男の力量がいまいち推し量れない。
黒は白にわざと隙を見せて何度も攻める機会を与えているのに、白は全くそれをものにできていない。
この白は果たしてやる気あるのだろうか。
そう思いながらボードから視線を白の男に移した。よくよく見ると顔が赤く心なしか目が座っている。部屋の照明のせいでさっきは気付かなかったが、かなりアルコールを摂取したとみれる。
証拠に駒を動かす手とは逆の手にワイングラスを持っていた。
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