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「ちょっと待てよ!そいつはまだ…」
「カルヴェス!!」
流佳が言う前に先に止めたのは、第一印象とはうって変って険しい表情になっているバーテンダーだった。
バーテンダーの判断は正しい。喧嘩を売るには相手が悪い。
そんま表情に何かを感じとったのか、男は口をつぐむ。
迎えに来パトロンは止めていた足を再び動き出したが、今度は流佳がその足を止めた。
「ちょっとまって、お金まだはらってな」
「わかった」
言い終わる前に返事をして、掴んでいた腕を離すとバーカウンターの方へ財布を広げながら歩いて行った。
「これ」横からのこっそりとした耳打ちに流佳は振り返ると先ほど止めようとしていた男が折りたたまれた紙ナフキンと白のナイトの駒を渡してきた。
「え、ちょ…」
とっさのことで、とっさに受け取ってしまったが、こんな所をパトロンに見られたらまずいと、流佳はすぐにそれをスラックスのポケットにしまってしまった。
「さあ、行くよ」
戻って来たパトロンは今度は肩を抱き寄せながら店から出るように促す。
そうして流佳と男は『LAIR』を出た。
店のすぐ目の前にはパトロンが乗ってきたと思われる車が止めてあった。
流佳たちが出てきたのを見て、ドライバーが後部座席のドアを開く。
車に乗って動き出す窓の外の景色は行きとは逆の順番で移っていた。
「このこと、お父様には…」
「そうだな、次の君の夜会しだいってところか」
男は静かに答える。
カミュにこのことがバレたら少なからず罰が与えられるだろう。
仕事中に基本的に自由行動は認められていない。破れば契約違反でカミュに知られた後、それなりのペナルティが下される。
できることなら知られずに済ましたいが、夜会次第となるとどっちにしろそちらで罰があるのかもしれない。
…たとえば公開レイプショーとか。
そんな5日後に行われる夜会とは、上品な響きの割に内容はかなりえげつない。
自分のような人間が、それぞれのパトロンに連れられて集う完全会員制のクラブが半年に一度だけ開くパーティーがあった。それを夜会と称されている。
そんな人間たちが集まればやることは大体想像できるだろう。
自分の奴隷を見せびらかすもよし、約束を破った奴隷を調教するもよし、
会員は相当の財力がなければ入れないため、たとえ警察組織に見つかったとしても、それをもみけすことのできる権力を持つ者もなかにはいる。
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