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そんな日本人の白い手をみて気付いたのは彼らがチェスをしていたことだった。
髭の生えたフランス人の男が白、日本人が黒だ。
お遊び程度のチェスならやったことがあるため、ルールは何となくわかる。
二つも席が隣りでボードを詳しく見ることができるわけではないので勝敗はわからないが、腕を組みながら思案している様子のフランス人と、肩肘をつきそんな様子の相手を笑みを浮かべながら見ている日本人ではどちらが優勢か見て取れる。
「そんなに熱い視線を送っていたらばれるぞ」
いきなり至近距離で発された声に俺は肩を震わせた。
「マ、マスター、驚かさないでくれよ」
声の主であるここのカフェのマスターに向き直り俺は大げさにため息をついた。
「綺麗な日本人だろ。一年のうち2.3回はここにくるんだ」
「2.3回?」
「そう、去年もこのくらいの時期に来てたかな?あの男と一緒にね」
そういってマスターはちらりと視線を髭の男にやった。
「あの日本人は男か?」
「ああ、私も最初は疑ったがね」
「へー…」
やれやれといったようにマスターは首を振りながら「やめとけ」と言った。
「…何がだい?」
「あの二人はそういう関係だ」
「そういうって…ああ、恋人同士ってことかい?」
マスターは首を縦に振る。
「別に俺はそんなつもりで見てたわけじゃない!」
「ハハハ、まあどんなつもりだろうが、あんまり見てると私みたいな目にあうぞ」
「…どういうことだマスター」
マスターはため息をついてからその話を始めた。
***
去年の丁度このくらいの季節にその二人はカフェに来た。
テラス席に座り注文したモーニングメニューを口にしながら二人はチェスを始めたのだ。
他の席の者も視線を送らずにはいられないほどのその日本人の美しさ。もちろんマスターも例外ではなく、客が減り店内が落ち着いたのをいいことにその二人をじっと見ていた。親子にしてはスキンシップが多く、友人にしては歳が離れすぎている気がする。
アジア系の容姿と年齢がどの程度比例しているのかは分からないが、その日本人の男はまだ若く、ティーンネイジャーといっても過言ではなかった。
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