第1章

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         僕はここにいる  いま、落ちる寸前にいる。だからといって、別に恐怖を感じているわけではなく、逆に暗闇の先にある光で癒されている感がある。風が僕を落とそうとすると、反抗期の僕はその流れの逆を突く。  たぶんあと一歩で楽になれるのだろう。でも、その一歩がきっと出せないのだろう。  世の中は、たぶんそんなようにできている…気がする。    ただ、悩んだ。  なんのために生きているのか。踏み出せずに止まっていても、世界は自分をおいて周りだす。そんなとき、自分はどこにいたらいいのだろう?自分の部屋のベッドの中?教室の掃除用具入れの中?自分の中?    それとも…他人の中?    自分の存在価値を教えてほしい。  僕がなぜ、ここにいるのか。  生きる意味を、僕は知りたい。  生きる価値を、僕は欲しい。    その答が、この煙草の煙のように掴むことができなかったとしても。    それにしても、世界は、やけに綺麗だ。    序章  月明かりの下で    3月10日     「ふぅー、さみぃ。」  タバコを覚えた1月から2ヶ月が経ち、テレビではアホカと思うほどの寒々しい恰好の女性があとを絶たない。暖かくなったのかなと少し信じてみても、家から徒歩5分の夜十時のこのマンションの屋上はやっぱり寒い。  地球温暖化は進行しているのか疑問になるほどだ。別に、認めたわけでもないのだが、自分が人一倍気温に対する耐久値が少ないせいなのかもしれないというのも…  やっぱり自分でもわかっている。  格好良さよりも暖かさを選んだ少し形が丸すぎるモコモコのダウンジャケットに、HOT無糖の缶コーヒー、マナーとしての携帯灰皿とZIPPOとたばこが切れた用の350円がここでの嗜みセット。人口ネオンが景色に星屑を擬似連想させ、ふいに吸い込まれそうになる。  別に死ぬつもりはない。たぶん死ぬ勇気もない。ただ、別に死んでもいいかなと思うだけだ。突然突風が吹いたとかの不可抗力だったら、たぶん納得して死ねるだろう。  このマンションの屋上と、夜景空間の境目に立って、煙草を吸うことで俺は自分を保てているのだろうとただ、なんとなくそう思う。  「すーぅ。」  今日もまたなにもない一日が始まる。別にそれでもかまわない。なにもない世界もそれなりに幸せだから。傷だらけのZIPPOをしまう。  今日一日のイベントを終了する。
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