第1章

3/106
前へ
/106ページ
次へ
   3月16日    つまらない現実を過ごしている。この時間を刺激的なものへと変貌させ、無理やり生きている実感を味わうために、犯罪を起こしても(ただの甘えだろうが)、俺はそういう弱い気持ちに今日は賛同する。  「すーぅ。」  そこを一歩とどめて俺はタバコをふかす。  このタバコとこのマンションへ不法侵入する自分の意味が少しわかった気がした。  今日一日のイベントを終了する。    3月20日  目の前でドット文字のように光るマンションの各部屋に興味が湧いた。たったガラス一枚で世界を遮断しきっていると思っている姿を、他の世界から無断で侵入する優越感と、プライバシーを覗く罪悪感がさらに興奮を呼ぶ。  「すぅー。」  これくらいならバレずに出来るだろう。世界に対して一歩を踏んだ。明日からは双眼鏡を持ってこよう。新イベントが発生した。  今日一日のイベントを終了する。    3月21日  このドキドキ感は3ヶ月ぶりだ。少しだけ嫌なことを思い出してしまったが、好奇心は壮大だった。  いつものマンションを非常階段から上る足も、いつもより忍び足に近くなっている。  「よいっしゅ。」  このマンションの屋上へ上るためには正規のルートでは行くことができない。最近は住居者でない人の自殺が多発しており、マンションの価格に大きく影響されるため、屋上に監視カメラやサイレンを鳴らすといった対応をしているところが多く、ここもその一つだった。なにを隠そう俺も一回鳴らしている。マジでびびった。あの逃げていく後姿は、きっと間抜けなやられ役が逃げるときのように情けないものだったに違いない。  「よし。」  そこで見つけだした方法は、螺旋階段状になった非常階段を最上階まで上り、その階段の屋根の端にある小さな入り口から屋上に登るといった方法だ。いまでは、非常階段の最上階には俺にしか使い道がわからないであろうコンクリートブロックが隅のほうに重ねられている。それを綺麗に並べて俺は、夢の入り口に入る。枯れ地のような殺風景なコンクリート剥き出しの屋上も、今日の俺には感動できるものとなっている。  「まずは一服。」  少し出っ張っている台形状の場所に座る。  緊張で震えている手でタバコに火をつけ心を落ち着かせる。そう、焦って見る必要もないのだ。だって、マンションが逃げるわけがない。  「すーぅ。」
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加