第1章

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 紫煙の行方には、数々の秘密が眠っていた。そう、眠っていたのだ。  「見えねー。」  世の中にはカーテンという結界が存在していた。部屋の中の明りのおかげで人がいることだけはわかるが、なにをしているのかがよくわからない。他の部屋も決定的なものはなく、カーテンの隙間を覗くだけに至った。  「はぁ?。」  深いため息と共に双眼鏡を離し、無駄な緊張で枯れた口に暖かいコーヒーを含ませる。  結局世の中はそういうものだ。俺の世界なんてテレビやゲームの中のようなイベント系に発展するわけでもない。  この脱落感にタバコはよく似合った。  その紫煙を辿っていたおかげだろう。まさにタバコ様様だった。そのとき、パッと明りがついた部屋を煙の隙間から発見した。人影が見える。というか、中が見える。そう、部屋に帰ってきたときは、まだカーテンは掛かっていない。急いで、それでいて目は離さず、左手探りで双眼鏡を探した。その瞬間動きが止まってしまった。髪の長さから女性だと思う。端的に言うとその女性はモノをなぎ倒した。そしてその場で膝から崩れ落ちるかのように倒れこんだ。急がないと。どこにあるんだよ。一旦、目を離し自分の真後ろにあった双眼鏡を見つけた。その時、予期せぬことが起きた。周りが急に暗くなったのだ。  「………停電だ!」  急いで、たぶんそこであろう部屋を左手に持った双眼鏡で覗く。そこはもう漆黒の闇に包まれていた。遅かった。それでも覗き込む。なにかが見えるかもしれない。月に明りがあるのだから。  「………………………………あちっ。」  右手に持っていたタバコの存在をすっかり忘れていた。タバコの灰が髪の毛につき、それによって灰が指先に落ちたのだった。急いで右手に持っていたタバコを捨てた。右手を見ると別に何もなっていなかった。被害は右前髪だけだった。ぽろぽろと落ちる髪の毛に俺は少し感傷に浸る。そしてゆっくりと捨てたタバコを拾い上げ灰皿に入れる。  今日一日のイベントを終了する。    3月22日  停電のせいで見られなかった映像が、頭から離れなかった。あの状況を例えるなら、悪者が人質の女の子を犯そうとした場面で助けに来るヒーローにテレビ画面に向かってドロップキックをかましたい。そんな思春期真っ只中の気持ちだった。
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