第1章

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 「そこにいる人、でてきなさい。」  「………。」  ライトが辺りを照らす。自分の場所にライトが当たるその前に、コーヒー缶を対角線上に投げた。  ガランッガラン  「誰だ、そこにいるのは。」  警察官がそちら側に進みだした後、速やかに脱走。  この動きには対応できるが、はっきりいって丸見え。ホントにうまくいくかが疑問。  保留。  作戦3 自首する。    したくない。というか、不法侵入に、未成年の喫煙、双眼鏡を使ったプライバシーの侵害と、罪状てんこ盛りで無事に高校入学できる保障はどこにもない。     ―GAME OVER―  結果、俺は2を選ぶことにした。それはもう自殺行為の賭けだ。この風景に飛び込むことも考えた。けど、それにはまだ勇気値が豪傑になっていなかった。泣きたいのをこらえて俺は息を潜めて、獲物を待つ。  『すべては、この1投に掛かっている。』  階段の一歩が1分で、俺の心臓の鼓動は1万回を突破する。  たったの、  『いま』、  この瞬間だ。  この時間を寝て過ごせたら、なんて幸せなんだろう。早く来て欲しいようで、まだ執行猶予を感じたい。そんな矛盾が俺の心を惑わせる。けど、時間は正確で、やっぱりそれは確実にゆっくりと、そして早く近づいてくる。  階段の上る音が聞こえなくなった。  気合を入れる。ここが正念場だ。一度、修羅場を味わった。今度は前と違って経験はある。体も(手のひらをニギニギする)、ちゃんと動く。俺は大丈夫だ。  俺はとにかく自分を激しく励ました。マイナスなことはない、どこを取っても勝てる状態が俺には備わっている…と感じたかった。信じたかった。いまこの場でそう言ってくれるのは、自分だけだったから。  周りの空気が変わった。  明鏡止水のように、場の空気が静まり返る。  「………………………。」  張り詰めた空気が、世界を止める。  「………………………。」  凍った空気が、世界を止める。  「………………………。」  世界を…。  「………………………。」  止め…る?  「………………………。」  なんだ?なにも起こらない?  緊張に耐えられなくなったのと、その疑問で、ふぃに力が抜けた。  『ガンッ』  「うっ!」
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