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「いいですよ、そのブロックに上って、このまま来てください。」
この人のせいで、負傷した右手に若干の怒りがあるが、左手を差し出して、ジャンプを要求する。
「はぁ、あんたバカ?私になにさせる気なの?」
意味がわからない。この女はここに上りたいわけじゃないのか?
「あの?、いったいどうしたいんですか?」
できるかぎりやさしく聞いてみた。
「ホントにバカね。そこに上りたいに決まってるじゃない。なに考えてるの?」
理不尽な言葉の暴力にもめげずに、俺は再び質問した。
「そしたらそのまま飛んできてください、俺が抱えますんで。」
痛い右手を我慢して上から両手を差し出した。
「なんであんたに抱きつかなきゃいけないの?マジきもい。」
もうやめた。なんでこんなこと言われながら助けてやんなきゃいけないんだ。
「それじゃあ無理ですね。我慢してください。」
そういってその場から離れようと立ち上がった。
「警察にいうからね。部屋覗いてたこと。」
はああああああああああああああああ?バレてる?バレてるの、俺?なんで?なんでバレた?いや、よく考えろ、ハッタリなんじゃないか、この女。こんな暗い場所でバレるわけがない。そうだ、バレるわけがないんだ。そう、絶対大丈夫。
「なーに言ってるんですか?そんなわけないでしょー。」
ここは強気の押しで切り抜ける。大丈夫、きっとうまくいく。
「べつにいいけど。このまま警察に言って来てもらうから。」
そういってその女はおもむろに携帯を取り出した。
「あっ、そのっ、ちょっ、待ってください。」
ふふん、と軽い笑いで、
「そう、そういう態度はいい心がけよ。」
勝ち誇った顔はとても綺麗に見えた。
「よいっしょっ。」
「いまよいしょって言った、よいしょって。私そんなに重くないんだから、不機嫌にさせるようなこと言わないで。」
なにを基準で重くないのだろう。というか、最初から不機嫌だったろ、お前。
「はいはい、すいません。」
軽くなだめて、落ち着かせる。
いま俺はこの女を肩車している。コンクリートの上に四つんばいになりたくはなかった。
「っちょっと、足触らないで。くすぐったい。」
はぁー、疲れる。こっちもありったけの理性で、後頭部に『ない』ものの感触にバリアを張っているのに。もし俺じゃなかったらいま、どうなってるかわからないぞ。
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