第1章

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 「いいですよ、そのブロックに上って、このまま来てください。」  この人のせいで、負傷した右手に若干の怒りがあるが、左手を差し出して、ジャンプを要求する。  「はぁ、あんたバカ?私になにさせる気なの?」  意味がわからない。この女はここに上りたいわけじゃないのか?  「あの?、いったいどうしたいんですか?」  できるかぎりやさしく聞いてみた。  「ホントにバカね。そこに上りたいに決まってるじゃない。なに考えてるの?」  理不尽な言葉の暴力にもめげずに、俺は再び質問した。  「そしたらそのまま飛んできてください、俺が抱えますんで。」  痛い右手を我慢して上から両手を差し出した。  「なんであんたに抱きつかなきゃいけないの?マジきもい。」  もうやめた。なんでこんなこと言われながら助けてやんなきゃいけないんだ。  「それじゃあ無理ですね。我慢してください。」  そういってその場から離れようと立ち上がった。  「警察にいうからね。部屋覗いてたこと。」  はああああああああああああああああ?バレてる?バレてるの、俺?なんで?なんでバレた?いや、よく考えろ、ハッタリなんじゃないか、この女。こんな暗い場所でバレるわけがない。そうだ、バレるわけがないんだ。そう、絶対大丈夫。  「なーに言ってるんですか?そんなわけないでしょー。」  ここは強気の押しで切り抜ける。大丈夫、きっとうまくいく。  「べつにいいけど。このまま警察に言って来てもらうから。」  そういってその女はおもむろに携帯を取り出した。  「あっ、そのっ、ちょっ、待ってください。」  ふふん、と軽い笑いで、  「そう、そういう態度はいい心がけよ。」  勝ち誇った顔はとても綺麗に見えた。  「よいっしょっ。」  「いまよいしょって言った、よいしょって。私そんなに重くないんだから、不機嫌にさせるようなこと言わないで。」  なにを基準で重くないのだろう。というか、最初から不機嫌だったろ、お前。  「はいはい、すいません。」  軽くなだめて、落ち着かせる。  いま俺はこの女を肩車している。コンクリートの上に四つんばいになりたくはなかった。  「っちょっと、足触らないで。くすぐったい。」  はぁー、疲れる。こっちもありったけの理性で、後頭部に『ない』ものの感触にバリアを張っているのに。もし俺じゃなかったらいま、どうなってるかわからないぞ。
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