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やっとの思いで、その女を上らすことに成功した。
「で、なにか用ですか?」
俺に背を向けて景色を眺めているその女を横目にタバコに一本、火をつけた。
「タバコはやめてっ。」
タバコの煙は嫌いなのだろうか。どっちにしろまた機嫌悪くされてもこちらも困る。そう思って言われたとおりタバコを消した。それを確認してその女は喋りだした。
「私の彼氏になって。」
「…………………は?」
まてまてまてまて。どこをどうやったらそうなるんだ。いや、そもそも俺の幻聴かも。そうだ、幻聴だ。いままで彼女がいなかった俺のさもしい精神がそうさせたんだ。
「ちょっと聞いてるの?」
そもそもこんな女が本当にここにいるのか?これはもしかして幻覚か。幻聴に、幻覚。最高じゃないか。俺はもう壊れているみたいだ。さようならーみなさん、さよーならー。
「ねぇ。」
むぎゅっ
「痛っつ。」
いつのまにか傍にいた幻女に俺はほっぺたを抓られていた。
「ねぇ、あんた大丈夫?ホントきもいんだけど。で、彼氏役できるの?」
彼氏役。やくやくやくやくやくやくやくやく。そっか…そっか役か。なーんだ、役か。その言葉を何回も頭の中で反芻して確認した。で、そこで疑問が生まれた。
「なんで俺?」
あきれた顔で、その女は言った。
「あんた聞いてなかったの?いいわ、詳しく言うから。」
てか、なんで俺がこんなのに付合わされないといけないのか。そう思う自分と密かに嬉しがっている自分に俺は、この状況を創ったこの場所に再び感動していた。
「じゃー簡単な話、別れたその湯浅ってやつに自分がモテるってことを見せ付けたいわけね?」
「そーゆーこと。」
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