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自転車置き場に走り、自分の愛車に跨ると、左脚にぐっと力を込めて地面を蹴った。
勢いよく進む自転車に、更に力を込めてスピードを上げて行く。
風がブワッと当たっておでこは全開、髪型も崩れまくっているが気にしない。
兎に角今は少しでも早く着かないと。
そう思った千晶は、青色の信号を変わるなよと言わんばかりに睨みつけていた。
毎週水曜日、学校帰り。
それは千晶にとっての特別な時間だった。
初めてあの人を見たのは、中学3年生の頃。
政宗達と受験勉強をしようと図書館に行った時の事。頭の良い遙に教わること30分。
すっかり飽きた俺は、未だ頑張って教わっている政宗を尻目に、暇つぶしをしようと館内をウロウロしていた。
正直どこも静かだし、本ばかりだし、暇つぶしにもならないなぁ、なんて思っていたんだけど、ふと目に着いた本をパラ、と捲って見たところ、なんと大好きなお菓子の作り方が書いてある、所謂レシピ本ってやつだった。
うおお、これ美味しそう。
だとか、あー、これ食べたい。
なんて言いながら、文字なんてそっちのけで写真を見ていたら、何となく甘い匂いまでしてきて。
(ああ、これはダメだ。誘惑に負けそう。
帰りに何か買って帰らないと。)
この本、匂いまでついてんのか、凄いな、何て考えながら顔を上げると、左隣に男が立っていた。
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