207人が本棚に入れています
本棚に追加
そして
(あ、終わった。)
そんな言葉が千晶の頭に過る。
目の前いっぱいに見えるグレーのズボン。スラリとした長い脚。
羨ましいが、そんな事を考えている暇はない。
恐る恐る顔を上げると、そこには般若のような顔をした数学教師、二ノ宮 治孝(はるたか)が立っていた。
「…朝倉、今は何の時間か言ってみ?」
「…あー、確か…数学の授業…です。」
「…ああそうだ。お前が一人で百面相してる間にこちとら必死に授業してんだっての。お前は一体何度言えば分かるんだ?せめて妄想するなら、黙ってやれ。授業妨害すんな。」
額に青筋を立てながら鬼、元い、二ノ宮先生はそう言った。
すっかり忘れていたが、今は授業中。しかも運が悪いことに数学の時間だった。
周りをこっそり見てみると、呆れ顔をしている友人と目が合う。
お前、またかよ。
なんて声が聞こえてきそうだった。
「おいこら、聞いてんのか?」
イライラした声にぱっと先生の顔を見つめると、どちらかというと強面な部類に入る先生は、眼鏡を片方の手で持ち上げながら睨みつけて来た。
そしてチッ、と舌打ちをした後、教壇の方へと戻っていく。
残念ながらいつもの事なので、そうそう怖がったりはしないのだが、如何せん今日はまずい。
何故かと言うと毎週水曜日は、千晶にとってとても大事な用事があるのだ。
「今日だけはご勘弁を!!」
なんて手を祈りのポーズにしながら言っては見るが時既に遅し。
ニヤリと憎たらしい笑みを向けた二ノ宮先生の口からは、
「今日の放課後、数学準備室の掃除な。」
そんな言葉が発せられたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!