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――厄介なところを見られたなぁ。
心の中で呟き、瞼を開いた私はめんどくさげに言った。
「それで、何かよう?」
少し苛立ちながら私は視線を病室から外し、冷めた口調で振り返らずに訊ねる。
最期の会話くらいちょっとは楽しめばいいのに、と私の中の誰かが呟いたがそんなのは無視だ。そもそも、私はあまり男子と話したりはしない。私が話す異性は弟か父ぐらいのものだ。
静かな風の音が私の耳朶を撫ぜ、少し間をおいて返事が返ってきた。
「も、もう消灯時間は過ぎちゃったヨ。早く病室に戻らナいと看護婦さんに叱られるよ」
たぶん一生懸命考えたんだろうけど、二か所ほど声が裏返っている。ボケるならせめて、突っ込みやすいようにちゃんとボケてほしい。
「なんなのよ、ほんと……」
私は大きな溜息をついて、夜風にパジャマの裾をなびかせながら振り返った。夏になりきっていない涼しげな風に倣い、冷ややかな口調で私は彼に言う。
「だったら、あんた一人で帰りなさいよ。私には関係ないもの」
肩を竦めて、私は舞之原の提案を拒絶した。
すると、今度は即答で返事が返ってきた。舞之原が苦しげに表情を歪めながら、あらん限りの声を張り上げて叫ぶ。
「ダ、ダメだよ。何考えてるのっ!」
夏の夜に響く大声が、屋上のコンクリートを激しく殴りつけた。病棟の周りに造られた森林の中に、その声が何度も木霊する。
あまりにも大きな声で叫ぶ舞之原に、私の背中がヒヤリとした。
「バカっ! 声が大きいっ! 看護婦さんが起きちゃうでしょっ!」
「あ、ご、ごめん」
私の叱咤に、舞之原は慌てて口を抑えた。
――……こいつは一体なにがしたいんだろうか?
珍獣を見るような眼で舞之原を見ると、彼はそっと口から手を離し、私の足下を指差した。
「ま、まずはこっちにきてよ。そんなところじゃ危ないよ」
まるで虫が鳴いているかのような小さな声で舞之原が囁く。
「いやだ」
懇願する彼に、私は少しいたずらっぽく即答した。
再び夜風が吹き、冷えた屋上のコンクリートを撫ぜながら私の声をさらってゆく。その残滓を捕まえるように、舞之原は口を大きく開けて叫んだ。
「なんでっ?」
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