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「……でも、どうせ一年で死んじゃうしな」
薄眼を開いて天を仰ぎながら、私が大きな声で囁く。死の宣告を受けどこか達観してしまった私は、微笑を漏らしながら首だけ振り返った。さらに何かを言おうと、舞之原が上半身を前に傾ける。そんな彼の声が言葉になる前に、私は自然な笑みを添えて答えた。
「ごめん。やっぱ、無理」
きっぱりと、むしろ惚れ惚れするくらい爽やかに、私は舞之原の願いを放り投げる。
――最期のおしゃべり。なかなか悪くなかった……かな。
そんな思いを胸に、私は首を元に戻し目線を下げる。もったいぶったおかげで、闇夜には目が慣れた。眼下に広がる限りなく濃い緑は死の色をしていた。敷き詰められた昼間なら活力あふれる芝生が、今か今かとばかりに私を冷たい地面に誘っている。
底が見えるようになった闇。舞之原という微かな光から眼をそむけ、死の闇と対峙した途端。私の身体が急激にこわばった。
これはさっき感じた、死への渇望じゃない。
胸を鷲掴みにするようなこれは……死に対する恐怖。
――いやだっ!
ガシャンと、屋上のフェンスが悲鳴を上げる。尻餅をついた私を受け止めた音だ。透き通るように木霊する残響が、私の耳を撫ぜ死の闇へと消えていく。
ドクンドクンドクンドクンドクン。
心臓がまるでマグマように熱い、逆に、背筋には氷が張り付いているんじゃないかと思うほどの寒気が走る。自分の身体が自分のものじゃないような虚脱感。
そんな私の身体に力を込めたのは、身体を包み込むような優しい声だった。
「四季川さん。大丈夫?」
舞之原の歩み寄ってくる気配がする。
「来ないでっ!」
反射的に叫んで、私は彼を押し留めるように片手を持ち上げた。
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