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母は父と出会う以前から、子供の産めない身体だった。卵巣が炎症を起こす原因不明の奇病で、当時の医学では、卵巣をふたつとも摘出しなければならない状況らしかった。
そんな時、父はあたしを母に合わせた。子供を授かることのない母にとって、それは衝撃的な出逢いだった。
陽子さんも、母の存在を容認していたらしい。
小説執筆の邪魔になるからと、母のところにあたしを預けることに関しては、陽子さんは、むしろ賛成していたという。あくまで、母から聞いた母の見解の話だが、それが本当だとすると、かなりヒドイ話である。
母は会社勤めをしていた、独り暮らしの女性。主婦ではない。昼間の間は、あたしは母のアパートのお隣さんに預けられ、帰宅後にあたしを迎えにいくという、かなり面倒なことをしていた。
けれど、母にとっては、それは天から降ってきた幸福ともいえた。一生授かることのない、子供と過ごすことができる時間。
父が、陽子さんと別離れるまで、時間はかからなかった。問題は、あたしをどちらが引き取るかということだった。
母と父と陽子さんの間で、話し合いをした結果、
父があたしを引き取ることになった。
理由は、陽子さんの育児能力のなさに加え、経済的に安定しない生活を送っているということ。
加えて、母があたしの存在を、とても大事に思っているということだった。
陽子さんも、納得せざるを得ない状況を、作り出した責任は自分にもあると、なくなく、あたしのことを手放した……ということだった。
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