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「月子はもう、あたしのことを、母親と認めています。それをあなたに理解してもらうために、こうして話し合いの場を、設けたまで……」
「ふざけないでよ! そんな、理不尽な話、理解できるわけないじゃない! 月子は私が産んだ、私の娘よ。月子に合わせて! 娘に合わせて!」
「あなたはまだ、母親になることができる……結婚して、子供ができれば……でも、あたしは違う」
「……」
「月子を失ったら、あたしは二度と母親にはなれない……あたしには、もうあの子しかいないんです 」
「……」
「お願いします……あの子を……月子をあたしの娘として認めてください。お願いします」
母は陽子さんに土下座し、頭を床にこすりつけ、懇願した。
母の必死の訴えに、陽子さんは言葉をなくした。
この人から、娘を取り上げてしまったら、いったいどうなってしまうだろうか?
結婚して僅か2年で、未亡人となり、そのうえ、子供まで失ってしまったら……正気ではいられないだろう。しかも、一生我が子を授かることができない身の上だとするなら……そんな情が、陽子さん中に芽生えたのかもしれない。
「ひとつだけ、約束してくたさい……いつか、娘には、真実を伝えると……」
「……」
「約束できますか?」
「分かりました、約束します」
陽子さんは、その取り決めを最後に、母に会うことなかった。
後日、あの写真と一通の手紙が送られてきた。
『この写真を、月子に渡してください。たとえ、離れていても、その絆は切れることはない。そう思えば、私も救われます。月子のことを、幸せにしてあげてください。お願いします』
手紙には、そう記されていた。
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