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約束は、8年後に果たされた。
聞かされた当初は、ショックだったけど、母の事情を考えると、仕方のないことだったのかもしれない。
母が再婚しなかった理由は、陽子さんに申し訳ないという思いだろう。
真実を聞かされても、あたしと母の関係は変わらない。
ただ、陽子さんに会ってみたいという思いは募る。
会ってどうするのか? 会って何かが変わるのか?
たぶん、何も変わらない。意味のあることかどうかも分からない。
それでも、陽子さんに会ってみたい。
高校2年の夏休み。あたしはバイトで資金を貯め、陽子さんに会いに行く計画を立てていた。
友人の亜沙美は、あたしの計画を理解できないようで……
「えぇっ?! ディズニーランド行くって話じゃなかったっけ?」
……と、ベタなリアクション。
「ゴメン、あたしどうしても行けないから」
「月子、なんのために、バイトしてたの? せっかくの夏休みなんだよ。いろんなトコ出掛けてさ、オトコに逆ナンされたりとか、ひと夏の淡い恋の出逢いとか、いろいろあるんじゃないの?」
「冬休みは予定空けとくから、また誘ってよ」
亜沙美の言うことも分かるけど、基本ウチの家庭は貧乏なのだ。夏休みだろうがなんだろうが、遊びにお金を使うということに、抵抗がある。
美術部所属のあたしは、日長一日、もくもくと絵を描いていられる体質。画材以外に、ほとんどお金は使わない。
幼いころから、母の苦労を知っているあたしは、贅沢なんてできない。陽子さんに会うのに、それほどお金はかからないだろうけど、それでも、母からもらったお金では行きたくなかった。
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