雨のち深海、時々幻

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「苦揺の母さんはバカっだったんだ。」 「はい毎日聞いているのでわかってますよ。」 苦揺には母親がちゃんといた。 つまり私にはきちんと妻がいた。 「あいつはバカだったんだ。 俺が好き勝手に暮らしてよ!! 欲しいからって超小型のミサイルとか、 人間の体なら何処でも作れる装置とか作ってさあ!! 勝手にノーベル賞とったりしてさあ!!」 「はい、御父様はすごいですよ。」 「そうなる前からずっとさ、 あいつ着いてきてさあ!! いつの間にか結婚とかしててさあ!!」 苦揺の顔以外が気持ち悪く歪む。 ぐちゃぐちゃという気持ち悪い音が遠くからして、 うでの付け根が痒くて仕方がない。 「それでさあ、 子供が出来たって喜んでたらさ。 苦揺が生まれてさあ!! こんなに綺麗なのに、 あいつみたいで可愛いっていったら、 泣き出してよ。 『いやあああ、なんでえ。 なんでこんな気持ち悪い化け物が生まれるの』ってずっといやがってさ。」 笑い声がいくつも聞こえるようになった。 喉が潰れるみたいな絶叫みたいな笑い声。 苦揺はゆっくりと私の腕の付け根を撫でていた。 「どうしよう… 苦揺、俺さあお母さん殺しちゃった。 赤ちゃんの苦揺の首しめてたからさ。 あいつ殴っちゃって、 ぐちゃぐちゃになるまで殴って、 そのままこの水族館に持ってきてさ。」 「はい御父様。 そこの水槽に沈んでいらっしゃいますね。」 「あいつがクラゲ好きなんだって!! だから結婚したときに今までの恩返しにこの水族館買ったんだよ!! 苦揺もクラゲとお母さん好きだろ?」 「はい、苦揺はクラゲも御母様も大好きですよ。」 まだ絶叫が聞こえる。
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