一.蓙織園産幸福茶

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*  多くの学生を前に、教授は教壇に片肘を乗せて講義を進めている。60席ほどある教室の中で、生徒はそれぞれ好き勝手に座って、所々に空席が目立つ。 「……」 5月下旬。まだ夏は遠いはずなのに、今日は真夏日並みの暑さだ。教室内にいる男子はほとんどがシャツ一枚になっている。 さらに、男女両方とも今回までの講義で配布されたプリントが入ったクリアファイルをパタパタと、うちわ代わりに仰いでいる。 端からみればどこか高飛車な態度の生徒たちをチラリと目に映しても、教授は何も言わない。  少しでも涼しい場所をと、僕は窓際の席を選んだわけだが、風がない上に日差しが強く当たるのでむしろ暑い。 メガネが触れる鼻の上部に溜まった汗をハンカチで拭き取った。
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