一.蓙織園産幸福茶

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 18時を回っているというのに、空は茜色に染まり、その先には雄大な夕焼けが広がっている。暗闇の夜が近づいていることを忘れさせるほどだった。 大学付近では狭っ苦しい空でも、自宅付近からだと広く見える。アパートがオンボロでも、雄大な空を見る事ができる点では良い選択だったのかもしれない。 そうやって、空に気を取られている時に聞こえた 「お前さん、ちょいといいかい?」 という嗄れた声によって僕は我に返った。 声の方向に目を向けると、僕のおへその辺りしかない身長の怪しい人"影"があった。……いや、それは影ではない。漆黒の装束に身を覆った何かだった。それは死神のようにも、魔女のようにも見えた。 ーー何より、その小ささが悍ましい雰囲気を台無しにしているのは言うまでもない。 「……っ?」 「ふぉふぉ、慌てるな、あたしゃ怪しいものではない」 「いや、どう見ても怪しいんですが……」 「気にするな」 その声は、作っている声のようだった。 その特徴的な嗄れた声の中に、時々子供っぽい声が混ざっている。
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