第1章

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 「何か聞きたい事はありますか?」  相談屋は唐突に聞いてきた。  「相談屋っていうのは何をする商売なんですか?」  「その名の通り、相談を聞いて助言するのが商売の内容だよ。最近の相談内容は退屈そのものでね。自分で考えた方が早いと思えるような相談ばかりだよ。それでも相談に来る人が多いのは、面白い話ではあるね」  「どんな相談でも受けるんですか?」  「受けるよ。自分でもどう助言すれば良いのかわからない場合もあるけど、でも話を聞いてあげるだけでも役には立つだろう。ところで君は哲学についてどう考えてる?」  相談屋が急に威嚇するようにこちらに顔を向けてきた。  「哲学?・・・」  なにか相談屋に関係がある質問だろうか。  「・・・学問のひとつだね」  「なるほど・・・」  そう言うと彼は天井を見たまま何も言わなくなってしまった。自分の頭の中には何人か哲学者の名前が浮かんで来たので素直にそのイメージを言葉にしてみたのだった。  なぜ彼がそんなことを聞いてきたのか、わからなかった。  言葉を失っていると、残念そうに相談屋は言った。  「知らないというのは全然悪いことじゃない・・・でも、もうちょっとましな答えを期待したんだけどね」  自分では、少なくとも人並み以上には知識があると自負していた。しかし、自分に限らず哲学に触れる機会は、そう滅多にあるものではないように思えて、苦々しい気持ちになって言った。  「普段、哲学とは無縁の生活をしてるもんでね」  「そんなことはないよ。哲学は簡単だよ。『人生とは何か?』を考えるだけなんだから。およそ誰でも哲学をやっているようなもんだよ。哲学的なことを考えてるんだという意識は無いだろうけどね」  頭が拒否反応を起こしそうだったが、努めて冷静に答えることにした。  「それは、ちょっと省略しすぎじゃないのか」  「単純に哲学する事と、学問における哲学は分けて考えた方がいい。学問としての哲学は『人生とは何か?』という問いから派生していったもので体系的にまとめられ、知っている方が哲学をするうえで参考にはなるだろう。しかし、知らなくても哲学はできる」
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