第1章

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 告白すると、わたしは棺桶の中に、はいるのが好きだったのでございます。ヒンヤリとして、静かで、桧の香りが心地よく鼻孔をくすぐり、たいへん落ち着くことができるのです。小窓もついていますから暗いこともありません。  わたしは、その中で寝入ってしまいました。気がつくと、どこかから読経が聞こえます。どうやら、わたしが棺桶の中で寝入っている間に葬式が進行しているようなのです。わたしは、はてなとおもいました。わたしのまわりを暗闇がおおって、一条の光も差し込まない、クロで埋め尽くされています。式が進行している間は小窓はあけはなしにするのが通例なのです。それなのに小窓は開いていません。ということは、式が行われていないのか、あるいは、今日に限って、これから小窓をひらく機会があるのか。わたしは自分が死んでいることを悟りました。  やがて、読経がやむと、わずかな振動とともにシンとして、わたしは再び心地よい気を取り戻します。しかし、わたしは死んでいなかったのです。棺桶を内側から滅多矢鱈、手足で叩くのです。ようやく、木の板が消え去ると、今度は、体の下にある、格子状に組まれた、金属製の枠を叩きます。乗っている人を振り落とそうと、上下に激しく体を揺さぶる馬のようでした。  わたしは棺桶に入るのをやめました。そうしたくてもできなかったのです。毎日、天井を見て暮らしました。  たびたび黒いものがわたしの体に近寄ってきます。それは人というには大きすぎるようでした。昼夜構わず、部屋に誰かほかの人がいようとも、近寄ってきては何をするでもなく消えるのです。  こんどは、白いものが近寄ってきました。そのものは、私の体を軽々とアメンボが水面を滑るように運ぶと、頭を執拗にまさぐりはじめます。くすぐられるようで笑いをこらえきれません。そうしてわたしがこらえているあいだも、唱えるように囁きかけてきます。感情のこもっていない切れ切れとした言葉をポツポツと。  「アメス・・・ピ・・・アセンメ・・・ガッネドトレー・・・アンカセンシメセ・・・ンガ・・・トウネコヘル・・・ピンセカト」
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