第1章

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 兄と妹は森を彷徨いお菓子の家にたどり着く。主である魔女に捕らえられた兄は地下に閉じ込められる。妹は兄のために食事を運んでいたが、それは兄を太らせるための策略であった。魔女は太った兄を食べてしまい、残された妹はいいました。「おばあさん、私を生かしておいたほうが使えるわよ・・・子供たちをわたしがこの家に誘い込んであげる」。うろ覚えだが、そんな話であっただろうか。  田宮医院が見えてきた。扉を開けて中に入ると右手に小さい窓がついた受付口と診察室の扉が見える。廊下が正面にまっすぐのびていてその奥の暗がりには人影があった。  老婆がにこやかな表情とともに出迎えてくれた。老婆の後ろには手術衣を着た大柄な男が控えている。懐かしい感じがするが、以前妻に聞いた田宮医師の特徴からはかけ離れていた。  「今日はよろしくお願いします」  私が挨拶すると、大柄な老人は「こちらへどうぞ」といった感じで機嫌よく手を広げて迎えてくれた。診察室とは反対側の、廊下の左手にある壁は鏡で埋め尽くされていて、いくつもの大小、色とりどりに縁取られた鏡が天井までびっしりと並べられている。簡素なデザインのもの、豪勢な飾りのついたもの。丸いのもあれば四角いものもある。鏡の中で体が分裂した人達の手に導かれ、廊下の一番奥にある重そうな鉄製の横開きのドアの内部へ入ると、また手術衣を着た男が待っていた。男は怯えている・・・いや当惑しているのか。明らかに尋常でない表情を作っていた。  医療用機械と無機質で渇いた薬品の匂いが充満する部屋の中央には分娩台が据え置かれていて、その右に診療用のベッドがあるが、さらにその上には赤ん坊がピッタリと納まるぐらいの小ぶりなベッドが置かれていた。左にはなぜか手術台が置かれている。  背後から覆いかぶさってきた影に押され、私は左にあるベッドに誘われた。体を横たえると太い管のついた吸入器が鼻と口を塞ぐようにかぶせられ、感覚は低下し、視界は薄れていく。  まぶしいぐらいに明るさを増していく私のまわりでは、ざわざわバタバタとあわただしい雰囲気が渦巻きはじめたが、わたしの心中は薄まっているせいか穏やかなものだった。左のほうも騒がしくなってきているようだが、杳として状況を曖昧なものとしてしか把握できない。
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