第1章

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 相談屋は肘掛に両手を置いて、背もたれに体重をかけた。  「何から話し始めればよいのか・・・」  「どこからでも結構ですよ」  「こういうところに来るのは初めてなので、聞いておいたほうがいいと思うのですが・・・料金みたいなものはいくらぐらいなんでしょうか?」  相談屋はにこやかに答えた。  「料金は聞いてから決めます。正直言って具体的な基準というものはないので。でも、びっくりするような金を取るようなことはありませんから心配ありません。あくまで常識的な範囲です。もし話の内容が面白かったらタダになるということも有り得ます」  「そうですか。では・・・私は中野で産婦人科を経営しております。すでに亡くなっている父から継いだものです。そしてもう引退されているんですが、隣には多々良博士という方が住んでいます。脳神経の権威といってもいいぐらいその分野で活躍された人で、引退したあとも精力的に研究を続けていて、この方からある手術の助手をやるように依頼されまして・・・その手術というのは人間の脳の右半球を切除して別の人間の右半球と交換するというものなんです」  ここで田宮はいったん話を止めてこの突拍子もない話に対する相談屋の反応を窺った。  相談屋は話を聞いているというよりは、まるで田宮をじっくり観察しているかのように身じろぎもしなかった。  田宮が先を話さないのでようやく相談屋は肘をついて口に手をやると「続けてください」と言った。  「多々良博士は私の大学時代の恩師でもあり、世話になった方ですから力になってあげたいとは思うのです。この手術を手伝っていいものなのでしょうか?」  相談屋は少し間を置いて言った。  「なるほど。その多々良博士というのは面白い人ですね。しかし、どうなんでしょうね・・・田宮さんはその手術の結果はどうなると思いますか?」  「かなり専門的な話になってしまいますが・・・」  「ああ、大丈夫です。私は話を聞くことにかけてはプロですから。一般的な知識はすべて頭の中に入っています。もちろんどこどこの婆さんが昨日何を食ったとか、その婆さんの息子が十年前何をしていたのかなんてことはわかりません。あくまで世間一般に流出している情報や知識に限っていえばすべて知っています。もし、わからないことがあれば手を上げて聞きますので」
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