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「ふ、う、…っ」
「…御影」
──今なら、分かる。
"もう会えないと思っていた"木鷺が、こんな風に優しく、自分の都合の良い風に接してくれるこんな時が、夢だと思ったから。
だから、焦った。こんな幸せ、いつ終わってしまうか分からない。
けれど、伝えた先にあったのは、お別れではなかった。
ふと、唇に暖かいものが触れる。その触れた唇の主は、優しい瞳で笑っている。
「今は…?」
「え…」
「昔は好きだった、んだよな」
呟いた思い人の言葉は、彼が、彼らしくないほどに臆病な質問だった。
臆病だったのは、俺だけじゃなかったのか。そう思うと、自然とまた涙が出てきて。
「好きに決まってる…!」
鼻声で言った精一杯の答えに、彼まで泣きそうな顔をして、彼より大きな俺の体を、優しく抱き締めてくれた。
end.
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