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始まりの日
父が自分の手を引いて、炎天下のアスファルトを駆け抜けて行ったのを覚えている。自分は引っ張られるまま、無我夢中で着いていったのだ。
転けそうになりながら、それはもう必死で、必死で……
アスファルトは熱されており、仮に倒れてしまった場合、皮膚が張り付いてしまうだろう。
死ぬ。
幼いながらにそう思った。
父は何も話してはくれなかった。
何を聞いても、「とにかく着いてこい」と言われ続けた。どこに向かっているのか、何が起きているのか、何も知らないまま、自分は着いていった。
父は優しかった。
自分のペースに合わせてくれたし、何度も心配して声をかけてくれた。転びそうになった時には危ういところで抱えてくれた。
お陰で自分は怪我なくたどり着いた。
『避難所』という掲示板が掲げられた地下施設。
たくさんの人が集められており、饐(す)えた汗の臭いが鼻を突く。次いで薬品の臭い。
当時の自分には何でたくさんの人が集められているのか分からなかった。『避難所』という文字も読めなかった。
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