始まりの日

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聞き耳を立てなくても聞こえてくる、罵声や怒声。怒りに任せて押し倒して、熱されたフライパン並みの熱さを誇るアスファルトへと叩きつける者までいる。 倒された人は悲鳴を上げたようだが、周りの声と走る人の足に踏み潰されて聞こえてこなかった。 よくよく見れば、何人もの人間が焼けただれた状態で転がっている。 いったいどれだけ踏み越えられたのか、身体中傷だらけ痣だらけの死体まである。 一瞬だけ、半開きの瞳と目が合った。 瞳孔が開いており、完全に息絶えたものだとは、当時の自分には分からない。 ――吐き気がした。 その時、自分は父の背中から引き剥がされた。込み上げてくる吐き気。 突然のことに戸惑い、思わず足を止めた父だったが、人混みに流されてしまう。 足を止めてくれたのは父だけで、他人はまったく自分の存在を気に止めた様子などない。 まるで小石を蹴るように、自分を足蹴にする人達。 おとうさん……!!と叫んでも届かない。
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