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逃げることはしなかった。逃げようとも思えなかった。
ただ怪物の動きを見ていた。先ほどの子ども達と同じで、放心していたのかもしれない。
「しっかりしろ!!」
はっとした。途端、金属音。
サーベルと、もう1つ。日本刀が交差していた。
「聞いているのか!!」
サーベルを押し退けて、誰かが自分と怪物との間に割って入ってきた。
赤い髪を束ねた、学生服の少女。
自分を助けてくれた、命の恩人。
1歩踏み出し、怪物を切り伏せる。
速く、強く、美しい剣捌きだった。
「おい、お前!!」
振り返った少女は、自分を見て一瞬だけたじろいだ。
気が戻ったせいで、父が死んだことがぶり返してくる。
力が抜けて、膝を折る。涙が溢れる。
「おとうさん……おとうさん」と泣きじゃくりながら、アスファルトに膝を立て死体に話しかけている様は、少女にはどのように映ったのだろうか。焼ける膝には構わず、死体に話しかけている様は。
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