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「広樹広樹広樹! 発見、大発見!!」
隆がいきなり奇声を発した。
「図書室は静かに!
って、どうせワシらだけじゃけどのぅ」
山口県立周陽工業高校の図書室。
閑古鳥が鳴くのを幸い、放課後ここに陣取るのは、俺達『ミステリー研究会』だ。
三月まで『文芸部』だったが、今や部員はわずか三人、哀れ同好会に格下げである。
「で隆、何が大発見なん?」
幼稚園以来の腐れ縁にしてミステリ研部長に敬意を表し、素直に返事する優しい俺。
隆はスマホを握りしめ、興奮冷めやらぬ面持ちで答えた。
「愛ちゃん、絶対この周陽町におる!」
「あいちゃん……誰?」
「広樹、お前それでもミステリ研部員か?
『昔話暴走中』の作者じゃろ!」
ああ、エブリのクリエイター『秋野愛』のことか。
公開作品は、童話のパロディ的な推理物一作のみだが、結構な人気だ。
だが文章は稚拙、伏線もトリックもお粗末そのもの。
正統派推理作家を目指す俺に言わせりゃ、所詮はズブの素人だな。
なのになぜか、読んでしまう。
何か、気持ちいいんだ、その稚拙さが。
「話の中の風景が、この周陽町にピタッと合うんちゃ!
プロフじゃ島根県在住じゃけど」
「偶然じゃろ?
どこも同じちゃ、田舎の風景なんて」
「いいや、今日の更新分読んで確信した! ほら、ここ」
さして興味もないが、
隆が差し出したスマホ画面を成り行きで覗くと。
『祝日の朝は静かである。
街の真ん中にある小山の頂上には国旗が翻り、はためく音が麓まで聞こえてくる。……』
「な? 祝日の山のてっぺんに国旗とか、今どきこんな山、ありえんじゃろ?
ここの漆山以外にゃ」
……確かに。
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