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まずは風景描写の検討だ。
『朝陽が昇る海の……』
『南向きの窓から見える砂浜に、……』
山陰の島根では、極々稀なはずの風景。
『祭りでは、神輿を担いだ酔っ払いが……』
『電車の後ろ二両はホームに入らず踏切の上……』
周陽町では、普通に見かける光景。
確かに、言われてみれば。
隆はああ見えて、見る目、いや読む目はある。
俺の書いた推理小説への感想は、いつも的確だ。
そして、俺をけしかける。
「エブリに投稿せえや。
パソコンから流し込むんじゃけぇ簡単じゃろ」
携帯小説なんぞに投稿する気は露ほどもないが、
実は半年前、俺は意を決して、応募者全員にプロの編集者の寸評が付くという、ある出版社の推理小説新人賞に応募した。
誰にも内緒だけど。
でも自信はあった。
練りに練り、考えに考えた、巧妙なトリック、伏線、謎解きの妙。
辛口の隆にも、珍しく好評だったんだ。
「広樹はホント頭ええ。ようこんな伏線回収できるのぅ! すげぇわ。
……じゃけど、――」
『トリックや伏線、謎解きの過程など、非常に完成度が高い。
しかしそれだけでは成り立たない。
登場人物の魅力が、小説に厚みを持たせ、読者を惹き付けるのです。
まだ高校生とのこと、ぜひまた挑戦を!』
編集者の寸評は、隆の感想、そのままだった。
「――じゃけど、登場人物が何か味気ないのぅ」
推理小説に、推理以外の魅力が必要か!?
納得いかない。
『都市伝説』は、筆がノりそうなネタだ。
秋野愛なんかより、そっちに集中したいんだ俺は。
スマホ片手に嬉々として風景を抽出する隆を尻目に、
俺と林は全くやる気なし。
林が上目遣いでボソッと話しかけた。
「『都市伝説』書いたら、ワシにもまた読ませてくれぇのぅ」
自作を読ませて以来、何となく懐かれている気は、する。
キモいけど。
そして翌朝。
『昔話暴走中』は、急に非公開設定になっていた。
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