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「くそう、ミステリ研部長の名に懸けて、お気に入り小説の一字一句くらい、絶対思い出しちゃる!
読み専ナメんじゃねぇで!」
隆が妙な執念を発揮したおかげで、風景の抽出に支障はなかった。
町内を探索しながらの写真撮影は存外に楽しくて、
結局俺達は、それから文化祭までの一ヶ月、夢中で秋野愛の痕跡を追いかけた。
いよいよ文化祭は明日。
秋野愛はあれ以来一切沈黙したままだ。
プロフには、再公開を待つ読者の足跡だけが、毎日ひっきりなしに更新され、
今やマジでエブリの都市伝説になりつつある。
ある意味、抜群の宣伝材料だ。
完成した展示の前に、俺達は並ぶ。
国旗の翻る漆山。
ホームに入り切らない電車。
陽の射し込む窓辺から見える、瀬戸内海。
隆渾身の抜き書きと、俺達の撮った風景は、
秋野愛の文章を読んだ時の空気感を、彷彿とさせるに充分だった。
ほのぼのワクワクする、あの感じ。
稚拙だと馬鹿にしていたくせに読みたくて、
もしや公開になってないかと、俺は毎朝エブリを覗くようになってる。
「ええ感じじゃのぅ」
溜め息混じりで見入る林。
「おう。今回はマジで達成感あるわ。
広樹も愛ちゃんに会いとうなったじゃろ」
満足気な隆。
「ま、会えたらサインくらい貰うかのぅ」
俺も、充実感で晴々していた。
翌朝珍しく早起きして、俺はウキウキと教室に直行した。
なんと、先客。
充電コードにつながったスマホを握りしめたまま、壁に凭れて眠りこけている。
「林!? 早すぎじゃろ、お前」
びくん、と起き上がった林の手の中で、
スリープモードから目覚めたスマホが、まだ薄暗い教室に光を放った。
画面は、
――久々に見た、『昔話暴走中』の、表紙。
確認したばかりだ、ついさっき。
まだ非公開で、表紙は開けなかった、はず。
――作者本人ででもない限り。
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