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慌てて画面をタップしようとした林の手から、俺はスマホをもぎ取った。
画面は『編集・管理』――!!
「『秋野愛』……まさか、お前が?」
林の怯えた目が、それを肯定していた。
次第に怒りが沸き上がる。
「何の茶番じゃ!?」
「すまん!! ワシ文章下手じゃし、真面目に書きよるお前らには言い出せんで」
「今さら!」
「すまん!! ミステリ研辞めようと思うたけど、文化祭の準備楽しゅうて。
お前の推理小説スゲぇし、ワシ新作読みとうて」
林は、視線をさ迷わせながらも果敢に、すがるように俺を見た。
「二人とも早いのぅ。あらら取り込み中?」
入口から、聞き慣れた声。
「隆! こいつ、林が、」
「おっ? 広樹、やっと愛しの愛ちゃんにご対面?」
「「……は?」」
「愛ちゃんも罪作り。いつまで経っても告らんけぇ」
「……知っちょったんか、隆!!」
「ふふん。読み専ナメんじゃねぇで!
隣の席でスマホ打ちよる奴の画面が、更新された小説と同じじゃったら、嫌でも気づくっちゃ」
「じゃ文化祭の企画、……まさか、わざとか!?」
林も呆気に取られている。
「だって広樹と愛ちゃん、相思相愛のくせに素直じゃねぇし。特に広樹が」
……そうだよ。俺は、避けてた。
この一ヶ月、始終顔を付き合わせて、解ってた。
林は、チャラい割にスレてない。
素直で、口下手だが話してると何だかホッとする。
それって、『昔話暴走中』のあの文章、そのものじゃないか。
文章は口以上にモノを言うんだ。
解っていながら、避けてきたのは、俺のほうだ。
林も、『秋野愛』も。
悔しかったんだ、俺は。
俺にない、資質が。
俺にない熱を持つ、あの文章が。
俺の文章を、俺自身を否定されているような、気がして。
怖かったんだ。
ちくしょうめ。
廊下からドヤドヤと、足音と声が近づく。
「お、客じゃ客!
愛ちゃんはお前に任せるけぇの、広樹」
隆は俺の肩をポンと叩いた後、廊下の一団に呼びかけた。
「こっちこっち!
秋野愛の秘密、大公開じゃでぇー!」
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