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 金山徹は、もうウンザリしていた。Y市の繁華街がとぎれて山の手の住宅街まではもう少し距離がある閑散とした場所にあるコンビニで深夜シフトのアルバイトを始めてもう一年が過ぎていた。就活に失敗して就職浪人が決定したときには、自分を採用しなかった企業を呪う日々を過ごしていた。採用されなかったのは自分の所為ではなく、あくまでも相手に自分を見る目がなかったのだと決め込んで、閉じこもりな日々を送っていた。  しかし、元々考えるよりも体が先に動く体育会系だった金山は―実際に学生時代は大して芽も出なかった野球に形だけ全てを捧げていた。公式戦に一度も出場できなかったのは監督の見る目がなかった所為だと決め付けていた―、三月もするとそんな生活にも嫌気がさした。就職できなかった本当のところは、なんでも他人の所為にして物事を結論づけるところと、思慮の浅いところだと言う事には思いが至らなかった三ヶ月だった。  そして手っ取り早くコンビニで働くことにした。深夜シフトを希望したのは金山自身だった。昼は就職活動に専念するために。実家には戻らずこの街に残ることを許し、このY市で働きたいという金山の考えを尊重して、未だに家賃を払い続けてくれる親の負担を少しでも減らそうという殊勝な思いでのアルバイトだった。  金山は深夜便の商品の入荷と品出しが終わると、早朝スタッフが出勤するまで店内の清掃と床のワックスがけをした。アルバイトを始めた頃は、単純に労働する喜びも感じたし、帰りに貰える余りものの弁当がありがたかった。昼間の就職活動にも結果は芳しくなかったが、それでも腐らずに一から会社訪問を始め、それなりに充実した日々を送れていた。しかし、そんな張りのある生活も二度目の就活が惨敗に終わり、絶望的な三度目の就活シーズンを迎えた春には何もかもが嫌になっていた。心のこもらない清掃と床のワックスがけを終え、その頃に出勤する店長に、ウザイ者を見るような目つきをされながら引継ぎをする、そして家に帰えると食事も摂らずに酒を飲み、夕方までだらだらと眠るだけの日々を送っていた。金山の心は病み始めていたのかもしれないが、仕事というより習慣になっていた深夜のアルバイトがそんな金山を紙一重のところで支えていた。
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