Positive Vibration 第16章

10/10
前へ
/10ページ
次へ
でも柴崎には、少しずつ 靄が晴れるように、 生きる本質みたいなものが 見えてきた。 漠然とではあったが、 ひとつの小さな塊を 見つけたような気がした。 チカはチカの生き様を 見せてほしい。 そのエネルギーを吸収したとき 宏介はチカの大きな存在を 知るだろう。 消しゴムのように 自分を削りながら、物語を 修正していく力は 誰にでもあるのだろう。 でも自分自身をなくしてまで 正しい物語を描いていく 人間はまずいない。 チカはチカなりに進むべき道を 見定め、新しい物語に 挑戦するのだろうか。 一秒一秒を積み重ねて 未来に到達するのではなく、 一秒一秒を過去へ逃がすことで 未来を創っていくのだろう。 チカはやはりそういうタイプの 人間なのだ。 柴崎は黙って歩き出した。 どこまでも黙々と左右に 足を動かした。 チカはようやく出口を 見つけたらしい。 宏介もやがて自らの出口を 見つけることだろう。 柴崎はあてもなくまっすぐと 進みつづけた。 ぼうっとした頭で目の前に 次々と現れる道を、 ただひたすら歩きつづけた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加