Positive Vibration 第16章

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宏介から抜け出した柴崎は、 舞台で見たチカがどこから来て どこへ行こうとしているのかを 確かめたかった。 柴崎はチカを探しにいった。 世界中の劇場という劇場を しらみつぶしに探し回った。 しかし、チカの姿は どこにもなかった。 宏介の魂を食い尽くしたチカは 終わりのない演劇システムに 組み込まれて、いまも観客たちに 投げキッスを送って いるのだろうか。 世界の果ての、名もない劇場で。 そして柴崎がチカを 見つけたのは、 思わぬところだった。 日本のひなびた旅館の 宴会場のステージだった。 チカは衣装のロングスカートを 膝までまくり、あぐらをかいて コンビ二弁当を食べていた。 「チカっ。やっと見つけたよ。 ずいぶん探したよ。 こんなところでいったい 何をやっているんだ?」 柴崎はあきれ果てた様子で 言った。 「柴崎さん、お久しぶりね。 元気でいらした?」 チカがひょうひょうとした 態度で言った。 「宏介の代わりに 私が旅しているのよ。 来る日も来る日も芝居を 続けているの。 今日は青森、明日は岩手。 日本全国回って、 それから世界中を旅するわ」
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