Positive Vibration 第16章

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「宏介は君を待っている。 舞台の役は死んだとしても、 役を超えられない役者は 生き続けるんだ。 過酷な旅になるかもしれない。 でも、チカの勇気と 太陽のような笑顔があれば、 きっと超えられると思う」 柴崎は震える手でチカの 小さな身体を引き寄せた。 柴崎の心音はチカの心音に 重なり、心がひとつになった。 柴崎は、あちらの世界で 雫石から受け取った 小さな木箱をチカに手渡した。 その弱々しい箱は チカの手のひらの中で、小刻みに 震えているように見えた。 チカは右手でゆっくりと 木箱のふたを開けた。 目が眩むほどの強い光が 解き放たれ、 チカは一瞬目をつむった。 再び目を開けると、 小さな木箱の中が大きく広がり 視界全体を覆っていた。 その視界の中には、上品な 仕立てのスーツを着こなした 宏介が立っていた。 そしてチカ自身が玄関先で 宏介にハンカチを渡す ところだった。 白髪まじりの清潔感ある髪型は 企業人としての風格と 自信を備える。 丹念に磨き込まれた モンクストラップの革靴は、 まさに出陣を飾るに ふさわしい輝きを見せている。
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