Positive Vibration 第16章

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チカが宏介の頬にキスをする。 宏介はいつものように軽く 笑みを浮かべ胸元で手を振る。 チカもいつものように 「いってらっしゃい」と 太陽のような笑いを照射する。 このような光景は、 世界中を探せば あたりまえのように 繰り広げられているだろう。 毎日が決められたルールに 従い順序よく実行されていく。 その安堵感と幸福感は 何物にも変え難い。 亀裂が入らないように、 穴が開かないように、 確認をしながら慎重に 時間を刻んでいく。 チカは鼻歌を口ずさみながら、 掃除、洗濯と家事を 手際よくこなす。 それは楽しくなければならない。 信頼がなくてはならない。 そしてそこには不安が あってはならない。 生きることを 演じつづけなければならない 役者の宿命だった。 宏介は自らを強い力で 奮い立たせ、舞台を会社に移す。 大胆な決断と緻密な計画。 人に求めることも 人から求められることも、 すべてはシステムが 判断をするのだ。 動物園の檻の中で 折り合いをつけながら、 うまくやっていくしかなかった。
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