Positive Vibration 第16章

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「姿形は違っても、柴崎さん、 あなたは未来の宏介なんでしょ。 私にはわかるのよ。 でもね、柴崎さん、 私は現実を生きているの。 演劇に夢を抱いて 演じつづける宏介が いまはちゃんとここにいるのよ。 信じてあげたい。 いまの宏介を支えたいの」 柴崎は祈るような気持ちで 言った。 「君はどこをめざしているんだ? 一分一秒という短い時間が 少しずつ積み重なると、 それは未来と呼ぶんだ。 君は未来を創るために、 いまこうしてここにいるんじゃ ないのか。違うかい?」 「違うわ、柴崎さん。 あなたは本物の宏介でも、 いまの宏介ではないわ。 私は現在を生きる宏介と一緒に 生きたいの。 だからもう私のそばから、 いますぐに消えてちょうだい」 と力強くチカは言った。 しばらくの間、柴崎は 言葉を忘れた。 チカの言葉が頭の中で咀嚼されて 消化されるまでに ある程度の時間を要した。 未来を変えることなど できないのだと思った。
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