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柔らかな声音でやんわりと断わられ、普段、平社員の私があまり来る機会のない部署を退出した。
清算は出来なかったが、思わぬ収穫にほくそ笑む。
先ほど刻んだ観察データを、脳内で再生しながら。
ニヤついた顔のまま部署に戻ると、部長から容赦ない報告書の催促が飛んで来た。
「昼一で上げます」
「遅いんだよ、お前は。
どこに行ってたんだ?
サボってる暇なんてないだろう」
クッ…
また始まった。
部長の嫌味な小言が。
「サボりじゃないです。
経理課に清算に行ってました。
課長には言って…」
「口答えするな。
営業成績も悪けりゃ態度も悪いんだから…まったく」
「……すみま、せん」
両方の手をきつく握り締め、悔しさを堪えながら部長に頭を下げた。
同じ上司と言えど、秋山課長とは天と地の差、月とスッポンだ。
一見、部下の好き勝手な振る舞いを許しているようで、要の部分ではきちんと手綱を握っていた秋山課長。
横暴でもなく、優しく諭すような言い方で部下を上手くコントロールしていた。
いいな、経理課は。
この薄らハゲ部長と交換してくれないかな。
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