639人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
日が落ちた金曜日のオフィス街。
足早に歩く人の群れに混じり、営業回りで疲れ切った足を引き摺りながら目的の場所へと急いでいた。
「上田 」
周囲に種類の違う靴音が響く中、不意に呼ばれて足を止める。
「お前も今からか?」
「そうよ。
得意先の社長の話しが長くてね。
なかなか帰れなくて参ったわよ」
前方に見慣れた顔を見つけ、思わず愚痴が口をついて出た。
「営業なんて、話の大半はどうでもいい事に付き合わされるもんだからな」
「……そうだけど。
愛想笑いのし過ぎで、いつか顔の神経がおかしくなりそう」
互いに零した苦笑い。
同業だけに、分かり合える気持ちだった。
「早く行かなきゃ、また山瀬がうるさいぞ」
「あー、だね」
その言葉に促されて、愚痴を切り上げ歩き出す。
今日は久しぶりの同期会。
主催者の山瀬さんは、三ヶ月に一度のペースで他部署に散った同期に招集をかけていた。
隣りを歩くこの男は、
同じ部署の東條 英明。
同期だが、私と違って彼の営業成績は常にトップクラスだ。
涼しい顔をして、鮮やかに契約を取り付けるのを横目に、四苦八苦もがいている我が身を何度呪った事だろう。
最初のコメントを投稿しよう!